文章術―「伝わる書き方」の練習 (角川oneテーマ21)
樺島 忠夫
角川書店
売り上げランキング: 367,916

※ 現在は、Kindle版のほうが入手しやすいようだ。


樺島忠夫[ググる!]『文章術—「伝わる書き方」の練習』は、本当に全然書けない、あるいは書けても短い文章しか書けない人たちにも薦められるよくできた文章術本になっている。

『文章術』が優れているのは、著者の長年の文章教育研究の成果が非常にコンパクトにまとめられているところ。しかも、本当に書けない人の問題点がよく研究されていて、新書という非常にコンパクトな判型なのに、学習手順も明確に示されている。限られた時間の中で消化できる練習問題主体に書かれている点も、副題にある「練習」という言葉が単なる飾りにはなっていないことを示している。通勤・通学時間を活かして文章術の基礎を身につけたい人には打ってつけの入門書だといえそうだ。

世の中で話題になる文章読本類を見ていると、読み物としては興味深くても、あまり読者の文章力を伸ばしてくれないのではないかと感じてしまうことが多い。著者の経験則やコツのご開陳にとどまっているからだ。もちろん、そうしたものが有益なことだってあるには違いない。でも、コツの列挙からの効率的な学習はむずかしいものだ。結局のところ、読み物としてはおもしろくても文章作成の実践に全然結びつかないまんまに終わってしまう。

ところがこの『文章術』は、的確に情報を伝達するために必要な注意点を、初学者に必要なプライオリティを考えた形で徐々に提示してくれるものになっている。さすがベテラン研究者が書いただけのことはあるというところ。さらに、多くの文章読本類がほとんど忘れているかに見える演習問題さえついている。「練習」という副題に偽りなしなのだ。これは新書版の文章読本としては特筆に値することではないだろうか。

問題はほとんどが選択肢の形で提示されている。書かないんじゃ文章の書き方を学ぶには不足だろうと感じる人だって出てきそうだ。でも、書けないで悩んでいる人に、いちいち文章を書かせるようでは初学者向きのテキストにはならない。大切なのは、まずそこで著者が提示する考え方を実践的に確認できるかどうかだ。確認できて「なるほどなぁ」と思えれば、必ず書くときに筆者の考えは頭の中によみがえってくるだろう。学習における演習とは、知るべきことを頭に定着させられるものでなければならない。そういうところがよく考えられた問題になっている。

新書の性格を考えれば、この書も交通機関の中で読まれる可能性が高い。初学者でなくても、いちいち文章を書かなければならない演習問題では、読者はせいぜい目を通すだけというのが関の山だろう。問題そのもののできがよくても、実際に書くことを要求するようなものばかりだと、現実には無意味な埋め草になりかねない。選択肢問題を使って文章作法のコツを呑み込ませようというは、新書という版形を考えれば、非常に実際的なやり方なのである。そういう点でも、この本はよく考えられているといえそうだ。だから、電車の中でしか本を読んでる暇はネーぜという人だって文章作法の実践的な勉強ができる。

多くの文章読本は、そういう学習手順の面倒を見てくれない。したがって、読んだ努力と時間は、なかなか文章力へと結果しない。この『文章術』の読者なら、自分の書く文章への反省点、改善の目安が、かなりの程度具体的に見えてくるようになるだろう。そして、人の書く文章への批評眼だって身につけられるかもしれない。そういうのって、なまなかな文章読本の書き手にはできなかったことだ。

もし問題があるとすれば、例文・例題がやさしすぎることかもしれない。基本的な考え方を学ぶのに適切な例が選ばれていることは疑いない。ただし、やさしすぎる話題の取り上げ方が読者の学習意欲を損ねる可能性はあるかもしれない。多くの初学者にとって、この『文章術』から学べるものは多いはずだけど、この点にかぎっては読者の奮起に期待するしかないかもしれない。


なんにせよ、樺島忠夫といえば文章教育研究者としては有名な先生だ。関連著作も多数にのぼる。こういう人の考え方は、もっと知られていい。


巷間、教育における国語力の強化といったことが喧伝される。でもそこで話題になるのは、単語の意味がわかってないとかちょっとした語法が間違ってるとか、子どもたちの言葉遣いのトリビアルな揚げ足取りみたいなことばかりだ。つまり、みんな思いつきでものを云ってるにすぎない。『文章術』をていねいに読み進めれば、そんないい加減な思いつきよりも、国語力を身につけるに当たってずっと重要なことが見えてくるように思う。そしてそれが、トリビアルな言葉の矯正の努力以上に、言語生活への深刻な反省なのだと気づく人も出てくるに違いない。

文章術―「伝わる書き方」の練習 (角川oneテーマ21)
樺島 忠夫
角川書店
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現在、紙の新本は流通していないみたいだ。今なら代わりにKindle版を利用することになるだろう。それでも、スマートフォンやタブレット型端末を利用しての読書も新書と同様の形を採るのではないか。とすれば、上にあげた新書の読まれ方をよく考えた書き方のアドバンテージは相変わらず揺るがないものとみていいだろう。