自己プレゼンの文章術 (ちくま新書)
森村 稔
筑摩書房
売り上げランキング: 327,572

Kindle版もある。


『自己プレゼンの文章術』の美質は、プライオリティをはっきりさせた構成にある。

学生が就職活動に際して要求される自己表現文を主として話題としているから、文章一般、自己表現一般を扱うものではない。でも、ここで語られるあれこれは当然他の文章や自己表現においても基本的には変わりなく要求されるものだ。就活目的以外でも読まれるべき文章術になっているといっていいだろう。

本書のもくじをリストに書き改めて提示してみると

  1. そこに読み手がいる
    • 自己表現文を書くということ
    • 目的のある実用文
    • だれがどう読むか
  2. 内容が決め手になる
    • 自己を主題化する
    • 事実と体験にものを言わせる
    • 一つだけを深く
    • 分割・具象化せよ
    • 無類を目指す
  3. 書き方が問題になる
    • 主題を立てる
    • 書き出しが大事
    • 冒頭に重点を置く
    • ムダを省く
    • 短文で強く明確に
    • 誤解を招く書き方
  4. 事前に打つ手がある
    • 体験のエキス化
    • ポジティブな思考と表現
    • 一冊の本から
    • 論文も自己表現

という具合になる。このもくじの順序は、そのまま書くにあたって考えるべきプライオリティの端的な表現に他ならない。

読み手を意識するところから、内容は決まってくる。自己表現といってもプレゼンテーションとして求められる文章には、文学モドキの表現はいらない。内容を的確に伝えるための書き方こそが求められる。内容にアピール力を持たせようとすれば、普段からあれこれやって置くべきことがある。そういう粗筋のすっと見える構成であることが、もくじから見てとれるのである。これは本書が信頼できる書き手によって考え抜かれた構成を持つことを端的に示すものでもあろう。

独習者にとって、学習手順、学ぶべき事柄のプライオリティが明確に示されることがきわめて重要であることはいうまでもない。にもかかわらず、この点を充分に意識して構成された文章術、文章読本はさほど多くはない。ことに最近の新書の文章術本ではほとんど顧慮されていないといっていいほどである。気の利いたコツが書かれていないわけではないにせよ、学習効果より話のおもしろさに重点をおいているのではないかと思えるものも多い。興味を持続して読めることも学習内容を心にとどめやすくなるという点で有益ではあろう。しかし、思いつきの導くまま、いきあたりばったりの「構成」では、学習効果はさほどあがらない。結局話のおもしろさで売り上げを伸ばそうという魂胆ばかりが見え透くことになる。そうした売れ行き至上主義みたいな文章術状況の中では、読者の学習のあり方を考えた本書は貴重である。

文学モドキの随筆でもなく、論文・報告書のような硬い実用文でもない、就活における自己表現という微妙な素材を扱っている点でも、もちろん本書は貴重な一冊といえるだろう。就活中の学生さんにかぎらず、自己アピールが求められる、たとえば推薦入試における小論文の多少柔らかいタイプの出題や、自己推薦文においても参考にすべき内容に富む。それらの指導に当たられる高校の先生方にもお薦めできる文章術である。